邪宗門(上)

1971年に39歳の若さで他界した小説家の髙橋和巳氏が、戦前二度にわたる弾圧を受けた大本教を題材に書いた小説です。

戦前の民衆の貧しさと、そこから宗教に救いを求める人々の心を、臨場感をもって描き出しています。

大本教は戦前、不敬罪と治安維持法違反で、2度にわたる大規模な宗教弾圧を受けました。信者は、貧困や不幸な家庭環境などの絶望から宗教に救いを見出すのですが、宗教弾圧により再び苦難を背負うのです。

小説では、大本教はひのもと救霊会という宗教団体として登場し、教祖の出口王仁三郎氏は行徳仁二郎として登場します。本部が破壊されたりする弾圧の描写は最低限に留まり、むしろ貧困や不幸に打たれながらも生きる人々の姿を強調しているように見えます。

宗教は人々の生活と切り離すことはできません。信者の生活は、生活感のない別の世界のものというイメージがあるかもしれませんが、信者一人一人の背景には、様々な生活や人生があります。いわば信仰は、信者の生活の一部であり、宗教弾圧というのは、信者の生活そのものを脅かすものであると言えます。

下巻は、戦争に巻き込まれる信者の苦悩が描かれているようです。続けて読んでみようと思います。