キリストの仲保
スコットランドの牧師で神学者の、トーマス・F・トーランスの著書です。芳賀力氏と岩本龍弘氏の共訳ですが、元々の訳者は岩本龍弘氏で、ドラゴン牧師としてYoutubeで活躍中です。原書でこの本に出会い、一生かけて翻訳しなければならないと決意して、翻訳したのだそうです。私も興味をもち、読んでみました。
本書は、キリスト神学について書いたものですが、私はキリスト神学に詳しくないので、非常に難解でした。中心的な議論は、三位一体論です。神は唯一絶対の存在ですが、キリストと聖霊は、神そのものなのか、それとも別の存在なのか、歴史的に議論されてきました。325年にニケア公会議で、現在キリスト教の中心的な教義としての、三位一体論が正統とされました。
キリストは神そのものであるが、肉体を持って地上に降臨され、十字架につきました。その後復活し、昇天されました。それがキリストの受肉、贖罪であり、神の一方的な恵みであるとのことです。
しかし、イエス・キリストは、神を「父よ」と言っているのだから、別の存在であるとも言えます。この点はキリスト神学で多くの議論がされてきました。
ここで、トーランスが注目するのは、科学において、観察できるものだけが真実ではなく、観察できないものも真実であるという理論が登場したことです。マクスウェルの電磁気学や、量子力学、そしてアインシュタインの相対性理論です。波であり粒子でもある光子の存在、存在するけれども観察できない量子力学の不確定性理論、時間と空間が相対的なものであるという理論は、2つの見方が1つになるというものです。この科学的な理論を、神学に応用すると、神であり人であるというキリストの存在を確認することができ、それこそが、キリストが神と人の仲保であるという根拠になる、と見るわけです。
トーランスはまた、イスラエルの重要性を強調しています。キリスト教会は、ユダヤ人をキリスト教に改宗させようとし、ユダヤ人を迫害してきましたが、ユダヤ人、キリスト教徒は、共に神が選んだ民である点、現在においても重要だと言うのです。重要なメッセージだと思います。
訳者の岩本龍弘氏は、プロフィールによれば、大学院で量子力学を専攻されていたそうです。だからこそ、トーラスの観点に共鳴されたのかもしれません。重要な本を日本に紹介して下さった岩本氏に、敬意を表します。