妻のおばあさん

かなり昔の話ですが、結婚したてのころ、妻の実家に行くと、おばあさんがいました。

初めてお会いした時にはすでに認知症で、妻が誰かもわからないし、私が他人であることもわかりません。ずっと一人暮らしをしていていましたが、放っておけないというので、妻のご両親が自宅に引き取ったのです。

おばあさんの口癖は、「ありがとうございます」でした。じゅうたんの上に、ちょんと座って、ありがとうございます、と繰り返して、一日過ごすのです。

おばあさんは、クリスチャンでした。妻はこのおばあさんが大好きで、小さい時に、よく一緒に教会に連れて行ってもらったそうで、妻にとっては、とても楽しい時間だったとのことです。

おばあさんの認知症は、治りませんでした。私たちの子供がうまれて、「おばあちゃん、ひ孫だよ」と言って会わせても、やっぱりわからずに、ありがとうございます、と言っていました。

そして、20年ほど前、おばあさんは他界しました。何もわからなくなっても、感謝の言葉をつぶやきながら、一生を終えたのです。おばあさんが、どうして、ありがとうございます、と言い続けたのかは、わかりません。でも、教会で感謝して生きていくことを教えられたことと、無縁ではないような気がします。

おばあさんの人生は、なんと素敵なものだろう、と思います。