NHKドラマ 「危険なささやき」に関する浜田聡事務所からの質問(2)

NHKが2023年9月23日に放送した、「危険なささやき」というドラマについて、浜田聡事務所が2024年4月13日に再々質問を行い、4月26日に回答が来ました。完全に無回答でした。

再々質問の内容はこちらです。
https://www.ogasawara-church.jp/wp-content/uploads/2024/04/c936df4c32ace1207ff83765312d5d16-1.pdf

それに対するNHKの回答はこちらです。
https://www.ogasawara-church.jp/wp-content/uploads/2024/04/f46d2e61ebc3fc3aa3208d08368223c3.pdf

番組に登場する河上陽子(仮名)氏のモデルは、2013年10月の札幌高裁の裁判の原告であると、NHKは4月11日の回答で述べています。
この原告は、拉致監禁による強制改宗の被害者であることが、裁判資料から明らかになっています。被害自らが統一教会を訴えるのは、拉致監禁被害者の共通のパターンであり、河上陽子氏はその典型例です。
NHKは、この番組を、「なぜ、人は違法な勧誘に心を奪われるのか、危険なささやきに冷静さを失うのか、その時の心のメカニズムを、実際のある裁判の記録をもとに再現劇と心理学分析から解き明かそうとしたもの」と3月18日に回答しているのですが、拉致監禁という暴力が、「心のメカニズム」に影響を与えないはずがありません。
番組のプロットは、「マインドコントロール」によって社会から断絶したというものですが、実は「拉致監禁」によって、断絶させられたの可能性が高く、その点に番組が言及していないのは、明らかに片手落ちです。

この点について、4月13日の再々質問では、鋭く切り込んでいます。それに対して今回NHKが無回答なのは、回答しないのではなく、回答できないのだと思われます。
4月13日の再々質問に対して、4月26日の回答では、全ての項目に対して、「番組制作の詳しい過程についてはお答えしていません。番組は 、 NHKの放送ガイドラインに則り、多角的な取材をもとに制作したもので す。」と一律に書いていますが、回答すること自体を放棄したものであり、説明責任の放棄です。

こんないい加減な番組を、NHKは作り続けるのでしょうか。国民から強制的に受信料を徴収しておきながら、説明責任を放棄するのであれば、NHKは公共放送の使命を放棄していると言わざるを得ません。

尚、再々質問文案を作成されたのは、Deep Seaさんです。いつもながら、精緻な分析ありがとうございます。
下記に質問文の全文をテキストで掲載します。
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旧統一教会(以下では「世界平和統一家庭連合」を「旧統一教会」と表記します)をテーマにして作成された番組「危険なささやき」に関連して、以下質問いたします。
 なお、以下の各質問への回答にあたっては、回答内容の曖昧・誤解を避けるべく、それぞれ対応する各質問の番号を付した上で、一括での回答を控え、個別に回答なされますよう申し添えます。

前提事実1

 番組「危険なささやき」は、裁判記録を元に、再現ドラマでモデルとなった元信者女性である河上陽子(仮名)氏の時々の心理状態について、西田公昭教授が本人役として、主人公に質問しながら分析しつつ専門家として見解を表明する形式を採った番組です。なお、河上陽子氏の経歴は以下の通りです。   ・1987年に旧統一教会の信者に勧誘され、ビデオセンター受講の後に、旧統一教会の信者となり、仕事を辞め家族との連絡を絶ち、献身(出家)。 ・献身後、2年8ヶ月の間マイクロ隊という経済活動に従事、1992年に合同結婚式へ参加。 ・その後結婚報告をしに叔父に会いに行ったところ、家族や牧師に説得され脱会し、 2004年に旧統一教会を提訴するに至る。

質問1-1
 番組のモデルとなった河上陽子氏が旧統一教会の信者であったのは30年以上前であったという事実を、番組制作当時、貴協会は認識していましたか。 

質問1-2
 仮に上記事実を認識していた場合、なぜ30年以上も前の事案にも拘らず殊更その事案のみを焦点を当て、まるで今現在も起きている出来事のように番組を制作・放送したのかにつき、当然疑問が生じることになると考えますが、そのような判断に至った理由を教えて下さい。

質問1-3
 旧統一教会の主張によれば、上記事件の勧誘があった時点から現在に至るまでに、旧統一教会においては、2009年のコンプライアンス宣言に基づく改革の結果、「入信前」における宗教性や活動内容についての説明は勿論のこと、「伝道(勧誘)時」においても必ず名乗るよう本部と地元教会から指導された事実(参照:https://ffwpu.jp/news/4022.html)、及びこのようなコンプライアンス徹底に伴い被害件数が激減している事実(参照:https://ffwpu.jp/wp-content/uploads/2023/10/kaikaku_report.pdf(13頁以下))があるとされます。
 貴協会は、番組作成当時、このような各事実を認識していましたか。

 質問1-4
 仮に質問1-3の各事実を認識していた場合、貴協会は、なぜコンプライアンス徹底により既に状況は大幅に改善している等の各事実を敢えて伏せ、あたかも30年前と同様の状況が継続しているとの誤解を視聴者に与えかねない放送をするに至ったのかについて当然疑問が生じることになるか考えますが、その判断に至った理由を教えて下さい。

前提事実2

 番組内では、河上陽子(仮名)氏役の女優やナレーターが「騙される」「詐欺」 等と述べながら、視聴者の印象に残る効果音や大きな文字を用いて「特殊詐欺」「マルチ商法」「薬物」「闇バイト」等の刑事犯に当たる犯罪行為を画面に列挙した直後、旧統一教会の宗教上の行事である合同結婚式の映像を放映し「霊感商法や高額献金が社会問題となってきた旧統一教会」とナレーションをした行為(以下「本件行為①」とします)によって、あたかも旧統一教会も犯罪で摘発された組織であるかのような印象を視聴者に与える放送がなされました。    しかし、旧統一教会の信者個人が私生活において犯した事件を除き、教団幹部の犯罪など、教団として旧統一教会に対して刑事事件が認定された事案は一件も存在しません。また、番組内で画面に列挙された「特殊詐欺」「マルチ商法」「薬物」「闇バイト」等の刑事犯に当たる犯罪行為が認定された事実も一切ありません。    それにも拘わらず、このような旧統一教会の刑事事件不存在の事実に反する印象を視聴者に与える本件行為①は、名誉毀損行為として民法上の不法行為に該当しうるのみならず、国際人権B規約第20条第2項「差別や敵意をもたらす宗教的憎悪の唱道」(宗教的ヘイトスピーチ)、NHK国内番組基準第1章第1項第2号「個人や団体の名誉を傷つけたり、信用をそこなうような放送はしない。」、同章第3項「宗教に関する放送は、信仰の自由を尊重し、公正に取り扱う。」、NHK放送ガイドライン2020(7頁)「…宗教を差別的に扱ってはならない。」、「差別は目につきにくいところで潜在的に行われたり、無意識に行われたりすることが多く、どのような表現が差別に当たるかは番組全体の構成や文脈の中で判断する必要がある。」、同ガイドライン(8頁)「放送で宗教上の信仰、教義、宗派を取り上げる際には、正確かつ偏りなく伝えなければならない」、「宗教上の行事やしきたりなどを戯画化したり、揶揄したりするような表現はしない」及び、同ガイドライン(18頁)「編集にあたっては、…事実をゆがめたり、誤解を与えたりするようなことがあってはならない。」に抵触しないかが問題となります。

質問2-1
 まず前提として、番組内で画面に列挙された「特殊詐欺」「マルチ商法」「薬物」「闇バイト」等の刑事犯に当たる犯罪行為を含め、教団として旧統一教会に対して刑事事件が認定された事案は一件も存在しない事実を、番組制作当時、貴協会は認識していましたか。

 質問2-2
 仮に上記刑事事件不存在の事実を認識していた場合、本件行為①により、あたかも旧統一教会も犯罪で摘発された組織であるかのような、事実に反する印象を視聴者に与える放送がされた理由につき、当然疑問が生じることになると考えますが、貴協会がこのような放送をするとの判断に至った理由を教えて下さい。

質問2-3
 貴協会としては、本件行為①と各法令・規約・基準・ガイドラインとの抵触は一切ないとの認識でしょうか。

質問2-4
 仮に本件行為①につき、各法令・規約・基準・ガイドラインに対する抵触はないとの認識の場合、かかる貴協会の認識を根拠づける具体的事実(特に、「正確かつ偏りなく」、「宗教上の行事…を…、揶揄したりするような表現はしない」、「事実をゆがめたり、誤解を与えたりするようなことがあってはならない」の箇所との抵触がないという認識を根拠づける具体的事実)を提示できますでしょうか。

前提事実3

 番組内でナレーターは、主人公である河上陽子(仮名)氏について「女性はその後会社を辞め、家族とも関係を断ち、全国をワゴン車でめぐりながら物を売るマイクロ隊と呼ばれる活動を行った。」とし、河上陽子氏が会社を辞め、家族と関係を断った後、マイクロ隊と呼ばれる活動を行ったことを明らかにしています。    また、番組内において西田公昭教授は、「どうして貴女が理不尽なほどに過酷なそんな物売りを素直に受け入れていたんでしょうか。ここで重要なことは、陽子さんが世間から完全に関係を断った、社会的断絶の状態にあったからなんです。」と述べています。    また、北海道新聞デジタルの記事(参照:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/923726/)における河上陽子氏へのインタビューによれば、「女性は入信して程なく仕事をやめた家族との連絡も絶ち与えられた偽名を使って千葉県で約30人の信者と集団生活を送った。」ことが明らかになっています。    札幌高裁判決(および原審の札幌地裁判決)は、原告である河上陽子氏について、 「⑦原告●●は,昭和63年2月ころ、母親が心配して東京まで会いに来たが,「拉致監禁」を避けるため, 隙を見てその場から逃げ出し, それ以降, 統一協会の方針により、家族には居場所を知らせずに偽名を使って生活するようになり、 外出も自由にできなくなったため、勤めていた会社を退職した。」との事実を認定しています。    以上から事実関係を整理すると、河上陽子氏が、会社を辞め、偽名を用いて生活し、家族との関係を断つなど、「社会的断絶の状態」に至らざるを得なかった大きな要因として、 1988年(昭和63年)2月ころに母親からの「拉致監禁」を避けるため, 隙を見てその場から逃げ出した事実があったことが推察されます。    「危険なささやき」の番組紹介文によれば、この番組は、「なぜ、人は違法な勧誘に心を奪われるのか。危険なささやきに冷静さを失うのか。その時の心のメカニズムを、実際のある裁判の記録を元に再現劇と心理学分析から解き明かす番組」とされています。とすれば、西田氏の言葉を借りれば、河上陽子氏が過酷な物売りを素直に受け入れた重要な理由である「社会的断絶の状態」に至らざるを得なかった経緯については、心理学分析の観点からのみならず、実際の裁判上の記録が存在することからしても、番組の趣旨からすれば、言及は不可欠といってよいほど重要な要素と考えるのが通常であるといえます。    番組内でナレーターは、主人公である河上陽子氏について「なぜ彼女は入信し、率先して教団の資金集めに関わったのか。」と疑問を呈していますが、以上の事実からすれば、母親からの拉致監禁を避けるため, 隙を見てその場から逃げ出した事実は、彼女が、社会的断絶の状態に至らざるを得ず、率先して教団の資金集めに関わるようになった主要な要因の一つであると評価せざるを得ません。

質問3-1
 河上陽子氏の社会的断絶の状態に至らざるを得なかった経緯につき、母親からの「拉致監禁」を避けるため, 隙を見てその場から逃げ出した事実を札幌高裁が認定していたことを、貴協会は番組制作当時、認識していましたか。

質問3-2
 仮に上記札幌高裁の認定事実を認識していた場合、「心のメカニズム」を分析する番組の趣旨からすれば言及は不可欠といってよいほど重要な要素であり、かつ河上陽子氏が「社会的断絶の状態」に至らざるを得なかった理由であり、かつ率先して教団の資金集めに関わるようになった主要な要因の一つでもある事実、母親からの拉致監禁を避けるため, 隙を見てその場から逃げ出した事実につき、なぜ敢えてこれを排除して、あたかも母親からの拉致監禁から逃げ出した事実が無かったかのように事実関係を捏造する形で番組を制作・放送したのか、について当然疑問が生じることになると考えますが、その判断に至った理由を教えて下さい。

質問3ー3
 貴協会が、犯罪としても評価されうる母親からの拉致監禁行為から河上陽子氏が逃げ出した事実を敢えて排除し、あたかも母親からの拉致監禁行為から逃げ出した事実が無かったかのように事実関係を捏造する形で番組を制作・放送する行為は、貴協会としては、NHK放送ガイドライン2020(18頁)「事実の再現の枠をはみ出して、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』などは行わない。」に一切抵触しないという認識でしょうか。そのように認識するに至った具体的根拠と合わせてお答えください。

質問3-4
 仮に質問3-3の上記行為につき、NHK放送ガイドライン2020との抵触はないとの認識の場合、かかる貴協会の認識を根拠づける具体的事実(「事実の再現の枠をはみ出して、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』などは行わない。」の箇所との抵触がないという認識を根拠づける具体的事実)を提示できますでしょうか。

前提事実4

 番組内で紹介された河上陽子(仮名)氏は、旧統一教会の入信に反対する者らによって監禁され強制棄教・脱会に至った元信者であり、そのことは裁判での反対尋間の記録に残っているとの旧統一教会側からの主張があります(参照:中山達樹弁護士ブログhttps://blog.goo.ne.jp/05tatsu/e/62256237305a1845ee1cbfd4ccde6660)    同番組の出演された郷路征記弁護士も同様の青春を返せ訴訟3事件では約7割が監禁下での説得であったと認めています(参照:郷路弁護士ブログ「札幌の3事件では、保護されていない原告の割合は31%」https://mgouro.hatenablog.com/entry/2023/07/07/204444)   物理的拘束の存在や違法性は、法廷でも認定されています。 「平成15年3月14日の札幌高裁判決は、『被控訴人らはいずれも控訴人を脱会(棄教)した者であり、脱会に至るまでの過程において親族らによる身体の自由の拘束等を受けた者も多く、このような拘束等は、当該被控訴人らとの関係においてそれ自体が違法となる(正当行為として許容されない。)可能性がある』と述べている。」(参照:魚谷俊輔ブログhttp://suotani.com/archives/437#_ftn1

質問4-1
 番組「危険なささやき」は、裁判資料を用いて「心のメカニズムを分析」する再現ドラマを交えた内容となっていますが、このような「心のメカニズムを分析」するに当たっては不可欠ともいえる背景事実である、事件の当事者、河上陽子氏本人が監禁され、強制棄教されたという事実を、番組制作当時、貴協会は認識していましたか。

質問4-2
 仮に上記事実を認識していた場合、「心のメカニズムを分析」するに当たって不可欠ともいえる背景事実を構成する「監禁・強制棄教の事実」を、なぜ敢えて排除したのか、また、なぜあたかも叔父の説得によって何の問題もなく脱会したかのように事実を捏造する形で、番組を制作・放送するに至ったのか、について当然疑問が生じることになるかと考えますが、その判断に至った理由を教えて下さい。

質問4-3
 貴協会が、犯罪としても評価されうる「監禁・強制棄教の事実」を敢えて排除し、あたかも叔父の説得によって何の問題もなく脱会したかのように装い番組を制作・放送する行為は、貴協会としては、NHK放送ガイドライン2020(18頁)「事実の再現の枠をはみ出して、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』などは行わない。」に一切抵触しないという認識でしょうか。

質問4-4
 仮に質問4-3の上記行為につき、NHK放送ガイドライン2020との抵触はないとの認識の場合、かかる貴協会の認識を根拠づける具体的事実(「事実の再現の枠をはみ出して、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』などは行わない。」の箇所との抵触がないという認識を根拠づける具体的事実)を提示できますでしょうか。

前提事実5

 欧米では前提事実4に挙げたような監禁脱会強要の手法は「ディプログラミング」と呼ばれ、犯罪として扱われています。ディプログラミング(監禁脱会強要)については、意識の浮遊、悪夢、健忘症、幻覚/妄想、暴力的振る舞い、自殺的/自己破壊的願望など、その対象者の精神に与える影響が深刻であり、日本でも強制棄教を受けた元信者や信者のみならず、強制棄教の実行者である親族においても複雑性PTSDなどに長く悩まされているなどの事例が多くあります(このような問題を以下「ディプログラミングによる被害」とします)。    ディプログラミング(監禁脱会強要)による深刻な被害については学術的調査(Lewis&Bromeley, 1987 や 池本, 2000)および著名なジャーナリストによるルポ(米本, 2008)において報告されています。宗教社会学者らの調査報告によって、反カルト運動と結びついた「脱会カウンセリング」は、たとえ信者本人が自発的に受けたものであっても深刻な精神的被害を与え、強制的なものであるとさらに甚大な被害を加えることが明らかになっています(下記の表を参照)。
 
番組「危険なささやき」の放送の最終部分では、モデルとなった元信者である河上陽子氏がディプログラミングによる脱会後の精神状態につき次のように述べています。   「家族や親戚は帰ってきて、良かった良かったと言ってくれるけど、私は地獄の思いでした。犯罪者だったんだ私はってところから、どうしようって。どうやって償おうじゃないけど、どうしたらいいだろうって、毎日、感情がないんですよね。麻痺しちゃってるというか。それを取り戻すまで凄く時間がかかった。」(参照:https://x.com/NwFle6q9vQTXb4q/status/1765044613424001501)    また、河上陽子氏は、ディプログラミングによる脱会後の自身に生じた症状について、別の民放テレビ番組でも言及しています。   「うつ病みたいな症状が現れて、回復には10年ぐらいかかりました。脱会しても自分の足で歩くことができるようになるまでは、かなり時間がかかった」(参照:2023/01/13北海道放送 https://youtu.be/zOqJ8MhinaI?si=dXL-uE2j5Gi11YUN)    なお、河上陽子氏は、監禁下でのディプログラミング被害に遭う前は、番組内では「理不尽なほどに過酷」と表現された「マイクロ隊」に所属していた時でさえ、「肉体的にも精神的にもハードだったんですけど、なぜか楽しいと感じることも」あったと語り、ディプログラミング前の彼女の健康状態は、心身共に至って良好であったことがうかがえます。

質問5-1
 貴協会は、番組制作当時、「ディプログラミングによる被害」について認識していましたか。

質問5-2
 貴協会は、番組制作当時、NHK放送ガイドライン2020(5頁)で示されている「視聴者にできるかぎり幅広い視点から情報を提供することを目指す」「意見が対立して裁判や論争になっている問題については、できるだけ多角的に問題点を明らかにする」という基準にしたがって、河上陽子氏が統一教会を脱会した後に心理的葛藤及び精神的苦痛を被ったことが、「ディプログラミングによる被害」である可能性を考慮しましたか。

質問5-3
 「ディプログラミングによる被害」は、 ディプログラミングによって脱会した元信者、監禁から抜け出した信者の両方において生じており、最も深刻なケースでは自死にまで追い込まれた方もいます。監禁をする親族は、テレビ等からの情報に影響を受けて「救出しなければならない」と動機づけられていることも多いです。
 貴協会は、番組制作当時、NHK放送ガイドライン2020に基づき人権を尊重し、このような被害が新たに生じないように過剰な不安を煽らないための十分な配慮をしていたと認識していますか。

質問5-4
 仮に質問5-3につき、十分な配慮をしていたとの認識の場合、かかる貴協会の認識を根拠づける具体的事実を提示できますでしょうか。

前提事実6

 ディプログラミングによって脱会した「元信者」は、自発的に脱会した人たちと比べて、出身の教団に対してネガティブな感情を抱いていることも経験的な調査から判明しています(Solomon, 1978, pp.45-55)。下記引用は、元信者による述懐ですが、この調査が明らかにした内容を端的に示しています。   「無意識のうちにであれ、ディプログラマー〔監禁中に脱会説得をする者〕や家族や友人たちから、統一教会員としての体験は悪いものだったと考えなくてはいけない、と脅迫されているような気がした。これを腹立たしく思えば思うほど、グループを離れた後の思考バランスをとるのが難しくなっていった」 (同上 p.68。稲沢, 1986 258, 259頁の翻訳に基づき、一部の表現を修正)    番組「危険なささやき」でモデルとなった河上陽子氏についても、他の民放テレビ番組出演時、以下のように旧統一教会員としての体験をネガティブに発信しようとするあまり、事実関係を歪曲するなど、旧統一教会を過度に敵視する発言が散見されます(参照:2023/01/13北海道放送 https://youtu.be/zOqJ8MhinaI?si=dXL-uE2j5Gi11YUN)。 ・客観的には教団に犯罪行為が認定された事実は一件も存在しないにも拘わらず、「結局、犯罪に手を染める行為をさせられてた」と言及。 ・客観的状況からは、親族からの拉致監禁被害を未然に防ぐ予防策としての措置であったことが伺われるにも拘わらず、その事実関係は一切触れず「教団幹部によって勤務先の会社を退職させられ、両親にも身元が分からないよう、偽名を使い生活するよう命令された」と言及。    日本で、ディプログラミングを経験した統一教会(元)信者は4300人以上いると言われていますが、自発的に脱会した人たちの人数はその10100ほどの値となります。したがって、ディプログラミングを経験した脱会者は、決して「元信者」を代表し得ないといえます。   それにも拘らず、貴協会が、番組「危険なささやき」においてディプログラミングを経験した脱会者である河上陽子(仮名)氏を旧統一教会元信者の代表する人物として中心的に取り上げ、番組を作成・放送する行為(本件行為②)は、NHK放送ガイドライン2020(8頁)「放送で宗教上の信仰、教義、宗派を取り上げる際には、正確かつ偏りなく伝えなければならない」、同ガイドライン(18頁)「番組のジャンルを問わず、構成や演出など、全般にわたって幅広く目配りするとともに、題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する。」との規定と抵触するのではないかが問題となります。

質問6-1
 ディプログラミングによって脱会した「元信者」は、自発的に脱会した者と比べて、出身の教団に対してよりネガティブな感情を抱くことが調査の結果判明しているという事実を、貴協会は、番組制作当時、認識していましたか。

質問6-2
 前提事実5で述べた「ディプログラミングによる被害」や質問6-1で述べたディプログラミングを経験した脱会者の心理傾向についての事実を踏まえて現在も尚、貴協会は本件行為②につき、上記ガイドラインの各規定との抵触は一切ないとの認識でしょうか。

質問6-3
 本件行為②につき、上記ガイドラインの各規定との抵触はないとの認識の場合、かかる貴協会の認識を根拠づける具体的事実(特に、正確かつ偏りなく題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する。の箇所との抵触がないという認識を根拠づける具体的事実)を提示できますでしょうか。

前提事実7

 番組「危険のささやき」にて、裁判記録をもとに「心のメカニズムを解明」するに当たってナレーターが、「ここで、マインド・コントロールについての研究に長年取り組む社会心理学者の西田公昭に河上陽子の心理状態を分析してもらう。」と紹介することで、あたかも西田公明氏が第一人者として提唱するマインド・コントロール論が心理学界で広くに支持されている学説であるかのような演出のもと、「自分が他人に操られるままに」入信や行動を決断したとする河上陽子氏の心理分析をしています。    しかし、マインド・コントロール論は日本の裁判では一度も認められたことがなく、また国内宗教学会においては社会的弊害の大きい理論であることが主張されています(参照:http://waza-sophia.la.coocan.jp/data/nennpou/nennpou85.pdf(59頁以下))。    また、アメリカにおいては、学会においても、司法の場においても、マインド・コントロール論は疑似科学として完全に否定されています(参照:解散命令請求訴訟に提出した意見書03 http://suotani.com/archives/50553 解散命令請求訴訟に提出した意見書04http://suotani.com/archives/50557)。    世界で最も引用された統一教会研究 The Making of a Moonie の著者アイリーン・バーカー氏は、監禁脱会強要によって禁固刑を言い渡されたテッド・パドリック氏の著作を挙げながら、マインド・コントロール論によって「被害者は自力で脱出することができず、救出を必要としていると主張されたため、強制的なディプログラミング〔監禁脱会強要〕の使用も正当化された」と指摘しています(参照:https://eprints.lse.ac.uk/50874/1/__libfile_REPOSITORY_Content_Barker,%20E_The%20cult%20social%20problem_Barker_The%20cult%20social%20problem_2013.pdf (9頁))。    実際に、日本でも「他人に意のままに操られる」という西田氏が提唱するようなマインド・コントロール論を背景に、統一教会信者達は、自分の頭で考えられずに教団に操られるがままに行動している人、騙されているなどのレッテルを貼られ「救出」の対象とされてきました。結果として、河上陽子氏の事例のように、信者の親族が監禁による「救出」が必要と思い込んだ結果、監禁行為を実行に移してしまう事例が多数発生しました。  なお、西田氏が代表理事を務めている『日本脱カルト協会』のメンバーの中には、監禁現場に直接現れて旧統一教会信者の脱会説得を行った牧師・元信者が現在も複数在籍しています(参照:http://www.jscpr.org/)。

質問7-1
 貴協会は、マインド・コントロール論が上記のように、国内外の学会・裁判所から非常に批判的な評価を受けている事実を、番組作成当時、認識していましたか。

質問7-2
 貴協会は、現在、旧統一教会信者の一部又は全てが、他人(教団)の意のままに操られていると認識していますか。

質問7-3
 上記の通り、マインド・コントロール論は国内外の学会・裁判所から非常に批判的な評価を受け、かつ、監禁脱会強要の正当化根拠として用いられてきた理論です。
 それにも拘わらず、監禁脱会強要を経験した元信者の事例をモデルとした番組制作・放送に当たり、マインド・コントロール論の提唱者である西田公明氏を起用する行為(以下「本件行為③」とします)につき、貴協会は、NHK放送ガイドライン2020(5頁)「意見が対立して裁判や論争になっている問題については、できるだけ多角的に問題点を明らかにする」、同ガイドライン(18頁)「番組のジャンルを問わず、構成や演出など、全般にわたって幅広く目配りするとともに、題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する。」及び「虚構や真実でない事柄が含まれていないか冷静な視線で見極めようとする姿勢が求められる。」等との抵触は一切なく、全く適切であるとの認識でしょうか。

質問7-4
 本件行為③につき、NHK放送ガイドライン2020の各規定に対する抵触はないとの認識の場合、かかる貴協会の認識を根拠づける具体的事実(特に意見が対立して裁判や論争になっている問題については、できるだけ多角的に問題点を明らかにする、「題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する。」の箇所との抵触がないという認識を根拠づける具体的事実)を提示できますでしょうか。

前提事実8

 番組「危険なささやき」は、「旧統一教会」という宗教法人名を明示した上で、番組終盤における西田公昭教授が本人役で出演したセリフにおいて「健全な宗教ではない」と断言しています(以下「本件行為④」とします)。    このように公共放送が、教団として過去一度の刑事事件も認定されていない特定の宗教団体に対して行った本件行為④は、名誉毀損行為として民法上不法行為に該当しうるのみならず、国際人権B規約第20条第2項「差別や敵意をもたらす宗教的憎悪の唱道」(宗教的ヘイトスピーチ)、NHK国内番組基準第1章第1項第2号「個人や団体の名誉を傷つけたり、信用をそこなうような放送はしない。」、同章第3項「宗教に関する放送は、信仰の自由を尊重し、公正に取り扱う。」、NHK放送ガイドライン2020(7頁)「…宗教…を差別的に扱ってはならない。」及び、同ガイドライン(8頁)「放送で宗教上の信仰、教義、宗派を取り上げる際には、正確かつ偏りなく伝えなければならない」に抵触しないかが問題となります。

質問8-1
 そもそも前提として、「ある特定の行為」に対してではなく「ある特定の宗教」に対して、公共放送が断定的に「健全」か「健全でない」かの判断を行う行為は、信教の自由に正面から抵触する典型的な違反行為であるというのが、信教の自由に対する一般的な理解かと考えます。
 貴協会は、「ある特定の宗教」に対して、公共放送が断定的に「健全」か「健全でない」かの判断を行う行為につき、信教の自由を一切否定するものではないという認識でしょうか。そのように認識する具体的根拠と併せてお答えください。

質問8-2
 その上、番組「危険なささやき」において、本件行為④の断定行為は、特に、過去宗教団体としては一度の刑事犯も認定されていない特定の宗教に対して行われています。
 貴協会は、このような本件行為④につき、信教の自由を一切否定するものではないという認識でしょうか。そのように認識する具体的根拠と併せてお答えください。

質問8-3
 貴協会としては、本件行為④と各法令・規約・基準・ガイドラインとの抵触は一切ないとの認識でしょうか。

質問8-4
 仮に、本件行為④と各法令・規約・基準・ガイドラインとの抵触はないという認識の場合、かかる貴協会の認識を根拠づける具体的事実(特に、正確かつ偏りなくの箇所との抵触がないという認識を根拠づける具体的事実)を提示できますでしょうか。

質問8-5
 令和6年3月6日の浜田事務所からの質問に対しても、NHK経営企画局は一切の根拠を示さないまま「NHKの放送ガイドラインに基づいて制作」した旨の主観的な回答に終始していますが、NHK放送ガイドライン2020(特に「放送で宗教上の信仰、教義、宗派を取り上げる際には、正確かつ偏りなく伝えなければならない」との規定)に基づいて制作するに当たって、具体的にどのような措置を講じたのかに関して、客観的な事実を提示できますでしょうか。

(参考文献)
Bromley, D. G., Shupe, A. D., & 稲沢, 五郎. (1986). アメリカ「新宗教」事情 ジャプラン出版.
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