家庭連合の解散命令請求に検察庁が関与していないのはおかしい
昨年10月13日に、文部科学省は東京地方裁判所に対して家庭連合の解散命令請求を行いました。この際の申立人は、文部科学大臣であり、検察官が含まれていません。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/pdf/93975301_01.pdf
宗教法人法第81条第1項では、「所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により解散を命ずることができる」と書かれているので、所轄庁として文部科学省が申立人となることは、法律通りということになります。
ただ、その要件は、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」となっていて、この「著しく」「明らか」というのは、非常に厳しい要件です。刑事事件であれば、検察庁が要件の程度を判断するので裁判所としても対応できますが、今回のような行政事件において、検察庁の関与なしに、裁判所に判断を丸投げしてしまって、よいのでしょうか。
これに関連して、今年の5月17日に、浜田聡参議院議員が質問主意書を提出しています。そこに、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士と、やはり元検察官の郷原信郎弁護士の意見を紹介しています。お二人とも統一教会に対しては反対の立場ですが、この解散命令請求の要件の厳しさを指摘しています。
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/213/syup/s213138.pdf
【若狭勝弁護士】
宗教法人法における宗教法人解散命令の要件というのは、法令に違反して著しく公共の福祉を害すると言う場合に解散命令ができると立て付けになっています。ここに言う「著しく」という言葉がポイントです。公共の福祉を害するというだけでなはなく、著しく公共の福祉を害するというとが法律に書かれている。「著しく」といえるためには、宗教団体の代表者が犯罪を犯していると言うことになれば、「著しく」という言葉がピタッと適合するんですけれど、逆に単なる民法の不法行為が多くなされたからといって、「著しく」ということに直ちに適用するかというと、少し難しいのではないかと思われます。
https://youtu.be/2JNyuwM-sI0?si=i7A_-g6qj0LyXmw7&t=252
【郷路信郎弁護士】
解散命令は、宗教法人法で非常に重いハードルを科されています。「法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」、この要件は、通常の事件には合致しない、本当に極端な事例じゃないと、解散命令は出せない、裁判所は認めない、という条文です。」
https://youtu.be/xZKdAKP1Ngo?si=laik5Wz-RXxD0z1G&t=1128
このように、解散命令請求の要件は、非常に厳しいものです。そこで、過去解散命令請求が出されて、解散命令の決定が出された2つの事件を見ると、2つの共通点があります。
一つは、民事事件ではなく刑事事件を根拠に解散命令請求が行われたということで、これは皆さんご存じの通りです。
しかしもう一つの共通点があり、それが検察官が申し立てに関与しているということです。実際に事例を見てみたいと思います。
まずは、1995年のオウム真理教の解散命令請求です。申立人は、東京地方検察庁検察官検事正と、東京都知事ですね。
https://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/141-1.html
それから、2002年の明覚寺です。こちらは、文化庁が申立人ですが、前提として、最高幹部の2人が逮捕されて詐欺罪で起訴されて有罪が確定しています。これを受けて文化庁が解散命令請求を行ったので、やはり検察官が関与しているわけです。
https://nichizei-journal.com/one06/解散命令を受けた明覚寺の事件とは
この2つの事件と、今回の家庭連合の解散命令請求を比べると、先ほどの2つの点で異なります。
一つは、刑事事件ではなく民事事件のみを根拠としている点で、これについてはかなり認識が広がっています。
そしてもう一つの異なるが、検察官が申立人になっておらず、刑事事件もないのでここにも関与していない点です。つまり、家庭連合の解散命令請求には、検察庁は完全にスルーされているわけです。通常の行政事件ならまだしも、法人の、それも信教の自由という非常に微妙な事件である宗教法人の、権利義務を抹消するという事件ですから、これはかなり無謀と言えます。
先ほどの若狭勝弁護士は、同じ動画で次のように語っています。
【若狭勝弁護士】
なぜ文科学省が申し立てをしたのか。法律上、所轄庁である文部科学省でなくても、公益の代表者であり、準司法機関である検察官が申し立てをすることが許されています。今回も、手続き的に公正を担保するためには、政府から独立した検察官に解散命令の申し立てをさせる、つまり前提として解散命令の要件があるか否かを検察官に判断させればよかったと私は思います。公正というのは、大事なことです。行政というのは公正でなければいけない。当然のことです。自分たちが公正だ公正だと言っているだけではダメなんです。誰が見ても公正だと言う、公正らしさが備わってなければいけません。そうなると、今回の政府自民党、文科省が解散命令の申し立てをして、検察官を入れなかったということは、公正らしさに欠けるところがあるんじゃないかと私は思います。
https://youtu.be/2JNyuwM-sI0?si=i7A_-g6qj0LyXmw7&t=586
ご紹介した2人の弁護士の共通点は、検事出身だということです。政府とは独立して、法律と根拠と論理のみで判断する機関のご出身だから、司法の判断の基準がはっきりしているのだと思います。そして、家庭連合側で、解散命令請求に対して対応しているのが、福本修也弁護士ですが、この方も検事出身です。私の聞くところでは、もともとは将来を嘱望されたエリート検事でしたが、思うところがあり独立したということです。
私はこの福本弁護士に、話をお聞きしたことがありますが、大切にしているのは、解散命令請求の目先の結果ではなく、50年後、100年後においても通用する司法制度でなければならない、ということでした。
日本の司法制度は、私法と公法を峻別することを原則としてきました。私法とは、民法がその典型ですが、私人間の権利を調整することが目的です。しかし公法は、刑法がその典型ですが、国・地方公共団体と個人との関係を規律し、公益を実現することが目的です。
今回の解散命令請求は、これらがごちゃまぜになってしまっていて、私法と公法の峻別ができなくなるという危険があるというわけです。
解散命令請求に、検察官を関与させなかったのは、岸田政権が、支持率が下がらないように、結果を焦ったのかもしれません。しかしこれは、行政の公正性を危うくする、大きな問題であると思います。