フランスの「セクト規制法」について
先日の浜田聡参議院議員の動画で、元足利市長の大豆生田実氏は、フランスで制定された「カルト防止法」を、日本でも成立させなければならない、とおっしゃっていました。
昨日、私はこのブログで、それに対して異論があると申し上げましたが、下記にその理由を述べます。
この「カルト防止法」というのは、フランス政府が2001年に制定した「セクト規制法」のことのようです。「セクト」はフランス語で、「カルト」と同じような意味合いで使われているようです。大豆生田実氏は、ご自身のブログでは「反セクト法」という用語を使っておられますが、同じものだと思います。以下、セクト規正法と称します。
セクト規制法は、フランスでも国内外で物議をかもした法律で、現在ではあまり機能していないようです。一時日本国内でもセクト規制法が話題にされましたが、最近ではあまり見かけなくなりました。
私もいろいろ調べましたが、セクト規制法について詳しいのは、山梨大学の中島宏教授のようです。(中島宏教授ご自身は、統一教会については批判的なご意見をお持ちのようです)
下記の資料が一番わかりやすいと思います。
https://www.chugainippoh.co.jp/article/ron-kikou/ron/20240823-002.html
以下に要約します。
(1)セクト規正法成立の経緯
フランスのセクト規制の動きは、1990年代に盛り上がり、1995年に議会調査委員会報告書(通称ギュイヤール報告書)が173の団体をセクトとしてリストアップしたことで、注目されました。この中には創価学会やエホバの証人、そして統一教会も入っていたようです。いわゆる、「ブラックリスト方式」です。そして、この報告書では、セクトに共通する要素として、10項目を上げました。①精神的不安定化、②法外な金銭要求、③元の生活からの意図的な引き離し、④身体の完全性への加害、⑤児童の加入強要、⑥大なり小なり反社会的な言質、⑦公序への侵害、⑧多大な司法的闘争、⑨通常の経済流通経路からの逸脱、⑩公権力への浸透の企て、の10要素です。
(2) セクト規制法の成立
そして、2001年にセクト規正法が成立しました。もともとはセクトを定義して規制しようとしたのですが、検討の過程で、4大宗教(カトリック、プロテスタント、ユダヤ教、イスラム教)が反対し、さらにはアメリカが反対したために、「セクト的団体」の「セクト的行為」を取り締まるというような建付けに変更されました。
「セクト的団体」とは、「活動参加者の心理的・身体的服従状態を作出・維持・利用しようとする法人・団体」ですが、これは組織であればどこでもありがちなものであり、宗教団体に限定されません。
そして「セクト的行為」とは「無知・脆弱状態不法利用罪」として定められたもので、①未成年者や,病気・障害・妊娠などにより著しく脆弱な状態である者、または②重大・反復した圧力行為または判断を歪めうる技術の結果,心理的・身体的服従状態にある者に対して,③その者に重大な損害を導くために,④その者の無知・脆弱状態を利用することを犯罪として定めたものです。この犯罪により、「セクト的団体」を解散させることもできます。
(3) セクト規制法成立後
セクト規正法が成立した後、この法律が適用されたのは、2004年~2009年に34件のみで、解散事例はありません。上記の要件の中でも、「重大・反復した圧力行為または判断を歪めうる技術の結果,心理的・身体的服従状態にある者」を、立証することが困難だからです。
また、2005年の首相通達により、セクト対策と政教分離原則との調整の必要性を指摘され、公権力によるセクト認定と,ブラックリストに基づく対策が明確に否定されました。
また、ヨーロッパ人権裁判所は,2011 年6 月30 日の判決において,一般論として,宗教法人の地位の拒否や侮蔑的な用語(セクト)の使用は,ヨーロッパ人権条約9 条が保障する信教の自由に対する介入となり得るとしました。
これらの情勢変化により、現在フランスにおいては、セクト規正法の適用例は、ほとんど行われておらず、ましてや特定の宗教団体を「セクト」として取り締まることはできません。
もし、日本で「カルト規正法」というような法律を制定するとすれば、それは国内の宗教団体のみならず、アメリカを始めとする海外諸国からの、「信教の自由を侵害する国家」という批判は免れないと思います。
フランスで失敗した「カルト規正法」を日本に持ち込むことは、非常に危険なことであると言わざるを得ません。
動画はこちら
https://youtu.be/9zgfpaXEjwM
![](https://www.ogasawara-church.jp/wp-content/uploads/2024/12/067b6d91d5d46571317292183a5a5ef2-1024x576.jpg)