ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?

金沢大学教授で、元統一教会の信者であることを公言している仲正昌樹氏の最近の著書「ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?」を読みました。仲正教授は、家庭連合を守ろうとかいう意思はなく、この組織がどうなろうと構わないと考えていることを明言した上で、解散命令請求に至ったプロセスで、マインドコントロール論や、統一教会が自民党を支配していたなどという陰謀論には、X上で反対の意見を述べています。

第二章「統一教会とホスト問題の意外な共通点」では、統一教会が霊感商法で壺を売っていたとか、統一教会の信者が高額献金をしていたということについて、統一教会が秘技をつかって信者をマインドコントロールしていた、とされるのはおかしいと言っています。
人間は誰しも、他人の影響を受けて意思決定をしているのであって、科学的根拠が薄いマインドコントロール論で、自由意志を否定してしまうと、自由主義自体を否定することになる、というのです。
「私は人間には自己決定する能力があり、それが常に充分に働いていると思っているわけではない。むしろほとんどの人が、常に他人の影響で右往左往し、どういう心の状態になれば本当に「自由意志で決めた」と言えるのかわからないと思っている。だからこそ、自分がした約束の意味をちゃんと理解していたのであれば、自分が「本当に心から望んだのか」分からなくなっても、責任は取るべきだと考える。」(P51)

妥当な意見だと思います。仲正教授は、元信者ということで、統一教会の思想や行動を熟知しており、およそ人の自由意志を支配できるような秘技を持っているわけではなく、通常の社会生活において他人から受ける影響力の範囲を越えないことを、よく理解しているのです。
仲正教授は法哲学が専門で、ジョン・スチュアート・ミルの著書「自由論」の次の言葉を引用しています。
「他人からどんなに愚かに見える行為で、他人に具体的な害を与える恐れが低いのであれば、自由意思によるものとみなすべきだ。」
そして、最後にこのように書いています。
「マインドコントロール論が横行すると、最後は、誰も自由意志を持ってないことになり、仕方なく、一番信頼できそうな第一人者に「全て」を委ねることになるかもしれない。それが全体主義だ。」(P52)
全くその通りだと思います。

もう一つ、第四章では、「影の支配者幻想に取りつかれた人々」では、安倍元首相の暗殺事件に係わる陰謀論について書いています。
安倍元首相は、アベノミクスで経済を成長させましたが、その反面格差が広がったと言います。その格差を問題視し、反安倍を唱える人々がいて、安倍元首相暗殺事件の犯人である山上容疑者が、家庭連合に対する恨みを動機として犯行に及んだという情報が流出すると、安倍元首相が率いる自民党と統一教会がズブズブの関係であり、自民党は統一教会に支配されているかのような幻想を流布したというわけです。
この点も、統一教会と自民党が決して蜜月ではないことを、元信者の立場で仲正氏はよく理解しています。こんなことを書いています。
「私の知る限り、少なくとも統一教会の幹部クラスは、同じ信仰を持っていない自民党の議員や保守的な財界人、言論人を本当のところ信用していなかった。都合が悪くなったら、いつ切り捨てられるか分からないとビクビクしていた。統一協会の支援を受けていた議員の側も、下手に切ると支援を受けられなくなるだけでなく、これまでの関係を暴露されるかもしれないので、厄介な連中だと思っていたろう。」(P185)
鋭い指摘だとおもいます。ズブズブではなく、是々非々の関係でしかなかったわけです。
だから、統一教会がまるで自民党を支配しているかのように喧伝するのは、陰謀論でしかなく、完全なデマです。安倍元首相が格差社会を作り出したとして、その業績を否定したい勢力が、安倍元首相の作った成長路線を破壊するために、家庭連合を利用したに過ぎません。このような陰謀論が横行することが、現在の日本社会の闇の部分だというわけです。

仲正教授は、私も原理研究会にいた時に、一緒に活動していたことがあります。当時から非常に知的な方で、一人で比較宗教研究会を立ち上げて、活動されていました。
私は仲正教授に家庭連合の擁護をして欲しいとは思いませんし、そのような期待はできません。しかし、家庭連合に係わる毎度コントロールなどのおかしな言説や、自民党と統一教会に関する陰謀論について異論があることは、日本社会の闇であるとする点、非常に共感する次第です。

動画はこちら
https://youtu.be/te6UYWp-t4k