イスラエルとユダヤ人 考察ノート
元外務省主任分析官の佐藤優氏の著書である、「イスラエルとユダヤ人考察ノート」を読みました。
佐藤氏はキリスト教徒ですが、外交官になるまではあまりイスラエルには関心がなかったそうですが、情報分析という仕事の関係でイスラエルに行ったり、イスラエルの人々との人脈を作る中で、日本の国益という視点からのイスラエルの位置づけや、キリスト教徒としての信仰的な位置づけを見直すことにもなったと、書いています。
この本は、雑誌への寄稿や学生への書簡など、28話からなる短編集です。第1話のタイトルは、「なぜ私はイスラエルが好きなのか」ということで、現役の外務省官僚時代に多くの同僚がアラビア語を学ぶ中で、イスラエルを嫌いになる人が多かったというエピソードを紹介しています。
そこで佐藤氏は、「イスラエル支持は、日本の国益に資する」と述べていて、その理由として、イスラエルは自由、民主主義、市場経済という日本と共通の価値観を持つ国であること、イスラエルのインテリジェンス機能は非常に優れており、その成果を日本は活用すべきであることなどをあげています。
それに対する中東国家、中でもイランはイスラエルをこの地上から消滅させることを宣言しており、ハマスやヒズボラといったテロ組織を支援しています。そして日本のイランへの投資は、テロ組織に資金が還流されてしまう危険があると述べています。
この本は、2007年~2014年に書かれた文書を集めたものなので、現在は状況が変化している面もあります。2017年のトランプ政権発足後、エルサレムにアメリカ大使館を移すなど、大きな変化もありましたが、2021年以降のバイデン政権により、イランの在米資産凍結解除など緩和策をとったため、イランはハマスへ武器支援を行い、昨年10月のハマスによるイスラエルへの無差別テロにつながったことを考えれば、佐藤氏が指摘した中東の構図は、大きく変わっていないと思います。
本書では、歴史的なことにも触れています。旧ソ連時代は、基本的に反ユダヤ主義であったため、ソ連の多くのユダヤ人がイスラエルに移住したそうです。イスラエルにはソ連の重要な情報を持った人脈が多いのだそうで、ロシア担当だった佐藤氏がイスラエルの仕事をするようになった理由でもあるということです。
日本では、あまり反ユダヤ主義と言う言葉は聞きませんが、反ユダヤ主義は、キリスト教国家である西洋諸国に根強く残っているもので、その最たるものがナチスドイツです。
中東の勢力分析をする中で、無視してはいけない要因だと思います。
日本の報道は、パレスチナに同情的なものがほとんどで、それに反する意見に対して感情的に反対する人々もいますが、何が日本の国益に資するものなのか、冷静に判断する必要があるのではないかと思います。
動画はこちら
https://youtu.be/16YNmA9DFKI