獄中記 国策捜査とは?
佐藤優氏の著書で、獄中記という本を読みました。佐藤氏は作家として有名ですが、もともと外務省に勤務しておられた方です。紹介文には、外務省本省の国際情報局分析第一課に所属と書いてあります。情報分析、即ちインテリジェンスのプロフェッショナルで、それは単なる文献を分析をするのではなく、相手政府のキーパーソンと人間的なつきあいを通して価値のある情報を得て、我が国政府の高官が正しい判断、外交ができるようにする、ということのようです。
佐藤氏は、ロシアとイスラエルに深い人脈があり、特にロシアについては、1992年のソ連崩壊後、2000年前後にかけて、ロシアが不安定な時期に、北方領土の問題を解決し、2000年の日露平和条約の締結に向けて、外務省で力を発揮しておられました。当時の指導者であるエリツィンやプーチンの考え方を理解し、決して外交で不利にならないように、橋本首相や小渕首相(共に当時)に助言をしたと書いてあります。
しかし、佐藤氏は、2002年に突如、背任と偽計業務妨害の容疑で逮捕され、512日間拘留されます。背任というのは、イスラエルのテルアビブで国際会議を開催した際の費用を、対ロシアの支援団体への予算を流用したということで、偽計業務妨害は、鈴木宗男代議士が国後島への発電機輸出に対して商社に便宜を図ったとする事件に関与していた、ということです。佐藤氏としては、通常なら事件にならないような事案なのに、突如逮捕されたということは、背後に大きな動きの変化があり、いわばスケープゴートとして逮捕されたと受け止め、これを「国策捜査」と名付けています。
もともと佐藤氏は、学生時代は社会主義青年同盟に所属していたり、獄中でもヘーゲルの哲学書を読むなど、知的かつ左翼的な思想の持主ではあります。また、佐藤氏はクリスチャンでもあります。前回読んだ、イスラエルとハマスの戦争に関するまあ分析が非常に正確なのも、宗教的な知見があるからこそ、できることかもしれません。
そのような思想背景があるからか、社会主義国ソ連や、宗教国イスラエルの情報分析に対する能力は卓越しており、佐藤氏はその能力を外務省での仕事に遺憾なく発揮しました。それは日本国のために行ったことで、外務省の人間としての矜持を保ち続けたわけです。それは獄中記の記録を見ると明らかです。
それが、突如2002年に逮捕されたということは、日本政府をめぐる背景が大きく動いたのではないか、と佐藤氏は考えています。そのため、日本はロシアとの関係を改善していくという方針が大きく変わり、そのスケープゴートとされたのが、鈴木宗男代議士や、鈴木宗男氏と非常に近い立場にいた外務省職員であった佐藤氏なのではないか、というわけです。
国がターゲットを決めて、その人物を没落させようとしたら、個人としては逃れることはできないということは、外務省にいた佐藤氏は理解できると言っています。獄中記の冒頭、つまり逮捕された直後から佐藤氏はそう書き残していて、問題はその大きな背景の変化とは何なのか、ということです。
佐藤氏は、獄中で多くの本を読み、記録をしているため、この逮捕を恨むのではなく、むしろ大きな転換の機会となったとして、前向きに受け止めています。大したものだと思いますが、それが佐藤氏の人生観なのでしょう。
佐藤氏は512日で保釈され、有罪判決及び執行猶予を受けました。出監後の佐藤氏の分析は、2001年9月の、同時多発テロ以降、世界は大きく変化し、テロ国家との戦いが主な課題となったため、対ロシアとの関係も見直さざるを得なくなった、ということです。確かに、今日の日本政府の対ロシア政策は、当時とは大きく変化しており、その起点は2001年だったように思います。
家庭連合に関して言えば、なぜ突如、政府が持てる力を総動員し、マスコミも一緒になって、組織の解体に動いているのか。信者の意見も聞こうとしないし、関連する議事録も公開せず、なりふり構わず動いているように見えます。まさに、佐藤氏の言うところの「国策捜査」ではないかと思います。もしそうなら、何か大きな動きが、日本の政治家や政府の上に働いているのでしょうか。だとすれば、それは一体何なのでしょうか。
佐藤氏の獄中記は、今から20年前に書かれましたが、今からすると当時の世界情勢やその後の歴史の動きから、背景が想像できます。
私たち家庭連合も、現在何が起きているのかわからない状況ですが、私たちが置かれている状況は発信すると共にきちんと記録して、20年後、30年後に振り返ってみた時に、正しい判断ができるようにする必要があると思いました。