解散命令請求の要件 株式会社と宗教法人のねじれ現象

家庭連合は、昨年10月13日に、解散命令請求を受けて、現在裁判所で審理中ですが、この宗教法人に対する解散命令請求の要件について、一般の法人である株式会社と場合と、比較してみたいと思います。法律上の要件について、一覧表でまとめてみました。

まず、失われる法益について考えてみたいと思います。
株式会社にしろ宗教法人にしろ、法人を解散すれば失われる法益があります。そしてその法益は、株式会社と宗教法人では異なります。
株式会社の場合は、主には財産権です。もともと資本を集めて収益事業を行うことが株式会社の目的なので、それは当然です。この財産権は、憲法29条定められていますが、公共の福祉のためには制限できると憲法に定められています。即ち、憲法29条第3項に、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と書いてある通りです。それに対して宗教法人を解散するにあたって検討しなければならない法益は、信教の自由ということになります。これは憲法20条に定められているわけですが、信教の自由を含め、思想の自由(第19条)や表現の自由(第21条)などは、精神の自由と言われており、これを制限するためには、LRA(Less Restrictive Alternative)基準が適用されると言われています。つまり、より抑制的ではなく、他に代替手段がない場合にのみ、その制限が許される、という基準です。これは、公共の福祉に比べれば、非常に厳しい基準です。
つまり、株式会社の解散命令と宗教法人の解散命令では、宗教法人の方が、より厳しい基準でなければならない、ということになるのです。

それでは、具体的に、株式会社と宗教法人の場合で、具体的な条文によって比較してみたいと思います。株式会社の解散命令請求を規定している根拠法は、会社法第824条となります。それに対して宗教法人の解散命令請求に関する根拠法は、宗教法人法第81条です。

まず誰の法令違反が問われるかという点について、会社法では「業務執行取締役、執行役または業務を執行する社員」となっていますね。社員というのは、会社法では従業員ではなく、持分会社で持分を持ち、かつ業務執行権を持つ者という意味です。従業員は含まれず、非常に限定的です。それに対して宗教法人法では、そのような限定項目がありません。従って、例えば一般の従業員が法令に違反した場合、株式会社では解散命令請求の要件になりませんが、宗教法人法では要件となりうるわけです。

それから、違反する法令に刑法を含むかという点ですが、株式会社には明記されていますが、宗教法人には明記されていません。会社でも刑罰を含まなくても要件にはなり得ますが、刑罰と併記されている以上、刑法違反と同等の要件が必要であることは明らかです。

また、決定的と思われるのは、株式会社の解散命令請求を行う際には、事前に警告が必要ですが、宗教法人の解散命令請求の場合、それが必要ありません。株式会社の場合は、警告を受けても改善されない場合のみ、解散命令請求が出されます。ところが、宗教法人の場合には、このような規定がありません。要は一発で解散命令請求を出すことができるのです。運転免許で言えば、一発免許取消です。実際、家庭連合の解散命令請求の根拠として出されているのは、コンプライアンス宣言前の事案で、具体的には2009年以前、13年以上前のことです。13年間もお咎めなしで運営されていて、警告などなかったのに、昨年になって突然解散命令請求が出されたわけです。もし解散命令請求を出すのであれば、少なくとも13年間に何らかの警告が出されてしかるべきなのに、それはありませんでした。

以上を整理すると、解散命令請求の要件を比較すると、株式会社のほうが宗教法人よりも厳しいわけです。
冒頭で整理した通り、財産権を主な法益とする株式会社の解散よりも、精神の自由を主な法益とする宗教法人の解散命令請求の方が、より厳しい要件であるべきですが、法令上は、逆転しており、いわばねじれ現象が生じているのです。

異なる法律間で、アンバランスが発生することは、ありうると思います。会社法は平成17年に大改正されていますが、宗教法人法は、施行された昭和26年以降それほど大きな改正がされていません。従い、法律の運用については、より信教の自由を侵害することがないよう、慎重な運用が必要なのです。ところが実際の運用は、解散命令請求にあたって、信者のヒアリングはしない、宗教法人審議会の議事録は公開しない、従来の解散命令請求の要件(民法は含まない)を一夜にして変更するなど、非常にずさんな法律の運用が行われています。
信教の自由は、我が国の民主主義の根底をなす、非常に重要な権利です。法律の穴をくぐるような行政裁量の在り方ではなく、原則に基づいた法律の適用が必要であると考えます。

動画はこちら
https://youtu.be/EedwzqatmwA