解散命令請求の要件拡大

岸田首相は、2022年10月19日に、宗教法人の解散命令請求の要件を突如拡大しました。
その内容は、「刑事事件のみならず民事事件も含む」という変更であるとされていますが、実はもう一つ重要な要素があります。それは、「宗教法人の代表役員等による」という要件がとりはずされたことです。

東京高等裁判所が平成7年12月19日に示した宗教法人解散命令の法令違反の要件とは、下記のものです。
①「宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為であって、社会通念に照らして、当該宗教法人の行為であるといえる」
②刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものであって、しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為、又は宗教法人法2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められる行為」
https://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/141-2.html

家庭連合以前に、行政によって解散命令請求がされたのは、オウム真理教と明覚寺の2件だけですが、どちらも代表者が刑事事件で有罪とされています。
しかし家庭連合には、代表役員等による刑事事件はありません。そこで要件として、法令の種類に民事事件を含み違反者は会員でもよいとすることで、解散命令ができると判断し、これまでの要件を拡大したわけです。

その結果、下記に図示した通り、従来と比較にならないくらいに、解散命令請求の要件の範囲が広がってしまいました。

これを法律的に正当化するために、民法の2つの条文が使われています。

まず、法令の種類を刑法から民法に要件拡大するために、民法709条(不法行為による損害賠償)が使われています。民法709条は、不法行為により他人の権利・利益を侵害した場合、損害賠償の請求を可能にするためのものです。これを「不法行為をしてはならない」という禁止規範ととらえ、「民法709条違反」という概念を作ったのです。

また、違反者を代表者から会員に要件拡大するために、民法715条(使用者等の責任)が使われています。これは、使用者から被用者への直接の指示がなくとも、被用者に対する損害賠償請求を使用者が保証するものですが、これを組織性ととらえ、会員の法令違反も要件としたのです。

民法709条も715条も、損害賠償請求権を確保して請求者に原状復帰させる趣旨の条文ですが、これを解散命令の法令違反の要件とするのは、かなり無理があります。この点、専門家でも意見がわかれていて、十分な検討が必要なところです。

しかし岸田首相は、この法理的な2つの飛躍を、1日にして行ったわけです。その結果、解散命令の適用範囲が大幅に広がってしまいました。
目的は家庭連合に対する解散命令請求を可能とすることでしたが、家庭連合に限らず多くの宗教団体が解散命令請求される可能性が高まったのです。

これによって失われる信教の自由という非常に重要な利益が、解散命令によって得られる利益と、本当にバランスするのか、慎重な議論が必要だと思います。