中国での経験

昨日の、杉本信行氏の「大地の咆哮」に関連して、杉本氏と丁度同じ時期に上海で仕事をした時の経験を書いてみます。

私は2001年から2006年まで、仕事で中国に駐在していました。当時は中国が鄧小平によって経済開放政策に転換してから10年も経っておらず、中国経済が大きく伸びようとする時期でした。外資を呼び込み、それに応じて多くの日本企業が中国進出を果たし、当時は安価だった労働力で生産を伸ばしました。

私は自動車部品の材料を作る工場で副総経理(副社長)を担当していました。当時の中国の自動車の生産台数は200万台程度でした。現在は2800万台であることを考えると、いかに生産台数が伸びたかがわかります。ちなみに日本の生産台数は800万台程度で、今もそれほど変わっていません。中国はGDPでも2010年に日本を追い抜いて世界2位になりました。ちなみに日本は今年ドイツに抜かれて世界4位となりそうです。

中国に進出する日本企業の雇用ニーズがあり、日本語を学ぶ中国の方がたくさんいました。また低迷する日本経済よりも発展する中国に期待して語学留学する日本の学生も大勢いました。

私も中国人の部下を持ち、彼らと接しながら、共感することもありましたが、文化や考え方の違いに驚かされることが少なくありませんでした。それらの点を、いくつかあげてみます。どちらがいいとか悪いとかではありません。それらは今となっては懐かしい記憶です。

中国の方は、まずは自己主張をします。そうしなければ、生き延びることができないからです。日本人のように遠慮することはありません。遠慮は下手をすると命取りになります。行列に割り込んでくることはざらで、それに対して文句を言わなければ、そのまま済ました顔をしています。私もそういうことに対しては、ガンガン文句を言うようになりました。それでも気まずいことになることはなく、相手はさばさばしているのです。

会議中や電車の中で、平気で携帯電話で話をしますが、誰も気にしません。私たちも感化されて、電話がかかってくると、「あ、今会議中だから後でね」なんてやりとりをするようになりました。電車の中でも平気で電話をするので、やかましいのですが、それが当たり前になっていました。日本の電車の中がとても静かなので、帰国した時却ってカルチャーショックを受けたことを覚えています。

彼らにとっては面子がとても大切です。人前で叱ることはタブーです。ある時、勝手に部内の指揮命令系統を変えた部長がいたので、会議の場で正しましたが、いつもはおとなしい部長が猛烈な勢いで食ってかかってきました。部下の前で面子をつぶされたと感じたのです。日本でも気をつけないといけないことではありますが、当時は改めてその意識の違いに気づかされたものです。

日本に対する特別の思いを、いつも心の中に抱いています。普段はおとなしい部下が、宴会で酔っ払って、「フーゾン(副総経理のこと)は、南京大虐殺をどう思ってるんだ!」なんて聞いてきたことがあります。周りの同僚がたしなめていましたが、心の中をふと覗いたような気がしました。

人を簡単には信用しませんが、一旦関係ができると、とことん信用してしまうところがあります。会社の運転手が、「私は親から、決して人を信用してはならない、と教育されてきた」と言っていました。その親は、文化大革命の時代に、さんざん責められて苦労したというのです。

会社で排出する産業廃棄物を引き取る業者を変更したら、その業者がごろつきのような連中を連れてきて、会社の入口にバリケードを作って業務妨害してきたこともありました。ワーワー騒ぐので、入口に出て行って押し返すと、「おまえを殺す」と脅かしてきました。結局公安警察を呼んで、全員追い払いました。

20年前のことですから、今は全然状況が違うかもしれませんが、文化や考え方が違う人たちとつきあうことは、とても大変だということを、実感した次第です。