帝国と宗教
宗教学者の、島田裕巳氏の著作です。歴史上の帝国が、宗教とどのように関わってきたかを論じています。
キリスト教は、当初ローマ帝国時代によって迫害されましたが、4世紀に入って公認され、最後は国教となりました。帝国が宗教を利用しようとしたのです。キリスト教会も乗じてヨーロッパで勢力を拡大しました。現在でもローマ教皇は、世界中で絶大な権威を誇っています。
仏教はインドが発祥の地ですが、インドから中国に伝来し、中華帝国において統治に利用されました。儒教が中華民族の思想の中心にありますが、中国は、金、元、清などの征服王朝が中国を支配する期間があり、国の統治には儒教ではなく仏教が便利だったのです。
イスラム教は、教祖ムハンマドの死後、後継者(カリフ)の時代に領地が広がり、イスラム帝国として栄えますが、現在の多数派であるスンニ派と、イランを中心として広がるシーア派に分かれます。教祖のムハンマドが商人だったこともあり、イスラム教は貿易と共に広がり、北アフリカ、東南アジアがイスラム教国となります。
宗教は帝国の拡大と切り離すことができません。第二次対戦後、帝国という概念は民主主義国にとって変わられますが、政治と宗教が深い関わりを持つ点は変わりません。世界最大の大国であるアメリカも、大統領の就任式に最初に手を置いて宣誓します。
日本は戦前の神道が戦争に利用されたとして政教分離に対して厳しいのが特徴です。しかし、人々の生活は宗教的な背景を持っていて、それを無理やり政治と切り離すのは、無理があるのではないか、そういう観点が、この本にはあるように思います。