我らの不快な隣人

ジャーナリストの米本和広氏が2008年に書いた、統一教会信者に対する拉致監禁に関するレポートです。拉致監禁問題を、監禁された方々へのヒアリングだけではなく、両親や元信者、韓国での現地取材に至るまで、詳細な取材を行い、総合的に分析したもので、拉致監禁問題を理解するには必須の本だと思います。

監禁された人物として、宿谷麻子さん他、多くの方々が登場します。麻子さんは、家族による拉致監禁の後脱会しますが、PTSD(心的外傷後ストレス性障害)や、それを原因とするアトピー皮膚炎を発症しました。親は、子どもを取り返そうとして拉致監禁をした結果、子どもに心と体の傷を負わせ、取り返しのつかないことをしたと激しい後悔の念に襲われるようになりました。(P138)

さらには、拉致監禁被害者の女性が脱会屋にレイプされ、父親は娘が犯されたことに衝撃を受け自殺したという、痛ましい事件も紹介されています。(P200)

拉致監禁は、子どものみならず親も傷つけ、親子関係を壊してしまうのです。
本書の最後には、12年5か月も拉致監禁され、深刻な栄養失調の状態で真冬(2月)に放りだされ、瀕死の状態で救出された後藤徹さんの話も書かれています。後藤さんの主張も、拉致監禁の被害者は子どもだけではなく、親も被害者だと言っています。

米本氏の立ち位置は、決して統一教会を擁護するものではありません。むしろ、高額・エンドレス献金など、統一教会を厳しく批判しています。この本が出版されたのは、2009年のコンプライアンス宣言が行われた前年であり、現在は状況が異なるとは言え、米本氏の統一教会への視線は一貫して否定的です。

しかし、その一方で、反統一教会派の、「統一教会は反社会的だから、拉致監禁は正当だ」という主張には、激しく反対しています。そのことに対する苦悩も、あとがきに書かれています。「傷ついた(元)信者、親子がバラバラになった家族のことを考えると、「反・反統一教会」の感情がむらむらと湧いてくるし、借金に追われる貧しき教会員のことを思うと、「反統一教会」の感情がこみあげてくる。」(P407)

米本氏は、極めて公平に取材するように努力されています。韓国に嫁ぐ日本人信者が韓国に行ってどのような生活をしているのか、それが韓国社会でどのように評価されているのか、直接当事者に聞いていて、統一教会に対する日本でのイメージと実際の姿のあまりもの違いに、衝撃を受けたと書いています。マインドコントロール論についても、誤っていると断言しています。

統一教会に対して批判的な米本氏が書いているからこそ、この本に書かれている拉致監禁の実態は信憑性を増します。ここまで徹底して、網羅的に事実をつみあけ、分析した本は、他にないのではないかと思います。

米本氏は、拉致監禁を批判するにあたって、反統一教会派から、多くの批判をうけたそうです。統一教会に有利と思われるコメントをすると、一斉にその意見を潰そうとするのは、今に始まった話ではないようです。そのような中で、このような本を出版された米本氏に、敬意を評します。

なお、この本が出版されて約4年後の2012年、宿谷麻子さんは、くも膜下出血で他界されました。心から、ご冥福をお祈り申し上げます。