ことだま
ことだま(言霊)という言葉があります。広辞苑によれば、「言葉に宿っている不思議な霊威。古代、その力が働いて言葉通りの事象がもたらされると信じられた。」というものだそうです。私は、人の口から吐かれた言葉は、まるで命を宿した魂のように、話した本人の意図を離れて、独自に力を発揮するものだと理解しています。
言葉は、ある時は人を励まして力を与えますが、ある時は人を傷つけ力を奪います。そして話した人自身が、その言葉によって、幸せな気持ちになったり、落ち込んだりします。全部自分に返ってくるのです。
言霊によって、自分自身が傷つかないようにするには、どうしたらよいでしょうか。私は、生活の知恵として、他人の人格を否定するような言葉は、極力使わないように心がけています。
もちろん、間違った事実について、指摘はします。しかし、その事実に係わる人について、「あいつは○○なやつだ」とか、「だからあいつは△△なんだ」と決めつける言葉は、人格を否定するものです。その人格分析は、もしかすると一面では当たっていても、別の面からすると間違っているかもしれません。下手をすると相手の人格を全面否定することになりかねません。
人間の脳は、「▲▲だ」という事実だけを認識するよりも、「●●」だから「▲▲」なのである、というストーリー性があった方が認識しやすい、と言う性質があるようです。そして、そういうストーリーが一旦できあがってしまうと、人間の脳はそのストーリーに縛られてしまい、それに反する事実については、認識しにくくなってしまうようです。
SNSでの炎上も、そのようなことが原因かもしれません。Xのような匿名性の高いツールでは、相手を誤解するリスクが非常に高いと思います。そして言葉だけが高速に交換され、イメージが拡散していくのは、まさに、「ことだま」そのものではないかとも、思います。
新約聖書に、「口にはいるものは人を汚すことはない。かえって、口から出るものが人を汚すのである」(マタイ書15章11節)があります。相手を活かすような、よい言葉を話すことができるよう、心がけたいと思います。