国家と宗教
国家のあるべき姿と宗教の使命について、西洋の哲学的、宗教的な観点から、論じた本です。
著者の南原繁は哲学者ですが、東京大学の法学部長を経て総長にもなった人物です。内村鑑三の影響を受け、キリスト教に深い造詣があります。この本が出版されたのは、太平洋戦争の真っただ中の1942年で、そんな時期に西洋の思想をもとにした国家論を発表したというのは、驚きです。
解説にあるように、この本の背景には、「およそ国家の問題は、根本において全文化と内的同一を有する世界観の問題であり、したがって、究極において宗教的神性の問題と関係することなくしては理解し得られない」(P15)という、キリスト教を背景とした信念があります。
この本で著者は、ギリシャの哲学者プラトンの国家論、キリスト教、中世の教会中心主義、ルネサンスの啓蒙主義、ルターの宗教改革による聖書中心主義、ナチスの民族主義を、テーマを追って分析しています。
最初に登場する国家論は、ギリシャ哲学の哲学者プラトンによるもので、人間中心の人文主義でした。
その後キリスト教が登場し、キリスト教会が神と個人の間に介在することで力を得て、「神の国」をつくるという名目で国家権力を握るようになりました。
しかしキリスト教会は腐敗して力をなくし、それに対する勢力として、ギリシャの人文主義に回帰するルネサンス(文芸復興)と、教会を介さない聖書に基づく神と個人の関係を取り戻す宗教改革が起きました。文芸復興と宗教改革は、アプローチは違いますが、理想の社会を目指す点で、目的は同じです。これを哲学的に整理したのがカントで、理性と霊性の統合を図ります。
人類が願う理想国家をつくるためには、人文主義だけでは限界があり、宗教的な理念が必要であると、著者は論じます。
そこには、現代につながる、著者の大切なメッセージがこめられていると、思います。