インド太平洋戦略(クアッド)

安倍元首相が作り上げた、インド太平洋戦略というスキームは、アジアの安定と世界の平和において、極めて重要です。

現在世界は、実質的に、米中二大国間のせめぎ合いとなっています。
そしてそれは、民主主義と、覇権主義との戦いでもあります。
米国は、欧州、豪州、日本、韓国などの民主主義を代表し、中国は、ロシア、北朝鮮などの全体主義・覇権主義を代表する国家だからです。
ロシアによるウクライナ侵攻も、力による現状変更を試みる、覇権主義の挑戦であり、中国が、この動きに乗じて、台湾に侵攻するリスクが、顕在化しています。

中国の戦略は、2013年に習近平国家主席が主唱した、「一帯一路」です。中国を出発点として、中央アジア経由の陸路「シルクロード経済ベルト」(一帯)とインド洋経由の海路「21世紀海上シルクロード」(一路)で、鉄道や港湾などインフラの整備を進める構想です。

これに対して米国は、トランプ大統領がTPP加入を辞退し、アメリカ自国主義に走ろうとしていたところ、安倍元首相が、インド、オーストラリア、米国に働きかけて、日米豪印協定、すなわちインド太平洋協定を実現しました。いわゆる「クアッド」です。これが中国を、どれだけ牽制したか、中国の反応を見ればわかります。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220524/k10013640211000.html

覇権主義陣営と、民主主義陣営が、せめぎ合う最前線が、台湾と朝鮮半島です。

朝鮮半島は、同じ民族が政治的理由で分断されており、朝鮮戦争以来、休戦状態が続いています。「血は水より濃い」の言葉通り、民族統一の思いが強い地域であり、1953年の休戦協定から70年目の今年、いつ北朝鮮が韓国に侵攻してもおかしくありません。

台湾については、中国という国が、もともと漢民族が少数民族を征服することでできあがった国であることから、中国は一貫して台湾は中国の一部であると主張し続けています。地政学的な重要性や、台湾が保有する最先端の半導体技術などから、中国が台湾に侵攻する可能性は極めて高いのです。

背景は異なりますが、この2つの地域は、いつ何が起きても、おかしくない状況です。朝鮮半島の38度線と、台湾海峡という最前線で、覇権主義陣営による現状変更をさせないためには、民主主義陣営の結束が重要です。
覇権主義陣営の「一帯一路」による囲い込み戦略に対して、民主主義陣営において安倍元首相が構想し実現したのが、「クアッド」による囲い込み戦略です。

クワッドを、民主主義陣営がどれほど評価していたか、安倍元首相が凶弾に倒れたその日に、米・豪・印の各国首脳が、「クアッドの創設で安倍元首相は中心的役割を果たした」という、共同メッセージを発したことからも、わかります。
https://www.sankei.com/article/20220709-HWS3CZGAM5IYVPKCNFZUAJ34WU/

安部元首相は、2021年9月12日、UPF国際会議にて、民主主義陣営が連携し、特に日・米・台・韓は協力関係を強化して、覇権主義陣営の現状変更の試みを許さないよう、メッセージを発しました。まるで、ロシアがウクライナ侵攻をして現状変更の危機が急激に高まるのを予見したかのようです。
このような、国家戦略的なグランドデザインを描ける政治家は、日本において、他にいるでしょうか。
私たちは、その遺志を、忘れてはならないと思います。