五・一五事件
今から90年前の1932年5月15日に、海軍の青年将校らが、首相官邸などを襲撃し、当時の首相である犬養毅を殺害しました。世にいう五・一五事件です。
この本では、なぜ青年将校たちがこのような暴挙に及んだのか、それに対して国民はどう反応したのか、その結果、日本はどうなったのか、について考察しています。
1929年に、アメリカの大恐慌が日本にも影響し、いわゆる昭和恐慌が起きました。当時の金融政策が失敗し、激しいデフレに見舞われて日本人が貧困のどん底に落ち込みました。犬養首相が政権を引き継ぎ、大蔵大臣である高橋是清が積極財政と金融緩和などの金融措置を行い、大不況は一息つきましたが、1931年に中国東北部にいた関東軍軍部が暴走し、満州事変が勃発します。
このように世情が激動する中で、五・一五事件が起きました。青年将校には明確なビジョンはなく、「昭和維新」と称し、ともかく日本を混乱させ、政党政治を糾弾するのが目的でした。
青年将校らは、「犬養首相に対して恨みは全くなく、むしろ尊敬している」と言っていたそうです。また、彼らには死刑が求刑されましたが、国民の間で彼らに対する同情から、救命・減刑の世論が巻き上がり、結局死刑ではなく有期刑となりました。そして五・一五事件の後、政党総裁から首相が選出されることはなくなり、実質的に政党政治は形骸化してしまいました。その結果、太平洋戦争に邁進してしまうことを、議会が止めることができなくなってしまったわけです。そういう意味で、本の帯にあるように、昭和戦前、最大の分岐点とも言えるかもしれません。
五・一五事件は、暴力で自分たちの意見を通そうとする、テロリズムです。時代背景や動機は全く異なりますが、今回の安倍元首相殺害事件もテロリズムであり、かつ、いくつか類似点があるようにも思います。気を付けるべきだと思います。