プロテスタンティズム

著者は思想史の研究家であり、500年前に始まった宗教改革と、歴史への影響について、書いたものです。

マルティン・ルターが、ローマ法皇を頂点とする当時のカトリック教会に対して提示した問題提起は、本人の意図を越えて、今日に至るまで影響を及ぼしています。

ルターの疑問はとてもシンプルで、ローマ教会が発行する贖宥状を買いさえすれば天国に行けるという、既存の教会の権威に対して、救いとはお金で買うようなものではないのではないか、という問いかけをしたものです。

しかしこの問題提起は、当時のイタリアのバチカンとドイツの神聖ローマ帝国の確執や、ドイツの政権の正統性を支えるなどの政治的な理由によって、ドイツからヨーロッパ全体に広がりました。そしてイギリス国教会から飛び出した新プロテスタンティズムは、アメリカの自由主義的なプロテスタンティズムと形を変え、現代の社会を形成するきっかけになった、ということです。

本書によれば、ヨーロッパでは、カトリックにしろプロテスタントにしろ、人は生まれると、まるで戸籍に入るように地域の教会に組み入れられる仕組みになっているのだそうです。一方アメリカでは、どの教会に所属するか、あるいは教会に所属しないかは、自由であるとのこと。ヨーロッパでは、キリスト教が社会にビルドインされてきたことは、日本でのお寺の檀家のようなものでしょうか。東西を問わず、宗教と生活、ひいては政治は、密着な関係をもってきたというのは、事実なのでしょう。

現代では、宗教と政治をあえて分離するような方向ですが、そこに至る様々な歴史的な背景があるようです。